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絵本

 題名 悪魔のりんご
  舟崎 克彦
  宇野 亜喜良
 発行 小学館 / 2006年12月
 サイズ 26.2 x 19.2cm・32ページ
 落ちぶれて老境に入った悪魔に似合うのは、魔法の力など失われているような粗末な杖と、裾の方に破れが目立つマント。

 そしてそんな悪魔が歩くのに似合う絶好の場所は、この絵本の冒頭に出てくる「こがらしの ふきさらしている 荒野」。

 悪魔は、杖を頼りに前のめりになり、帽子をとばされないように片手で押さえ、破れたマントをバタバタとなびかせながら歩いています。

 いいですね〜!
 もう、ワクワクしてきます。

 これ以上ないというくらいに、定型にピタリとはまった悪魔の姿にひき付けられます。
 しかしこの後、その定型が、どんどんと崩れていくのです。

 悪魔は、あろうことか悪事を働くか否かということで葛藤を始めるのですから。

 葛藤している悪魔は、人間的です。

 人間だって悪魔の部分があって、悪事に手を染めてしまいそうなことを考えたりするものです。
 でもとどまるのです……すべての人が……ふつうならば……当然のこととして……とどまるはずです……

 しかし悪魔は……


 物語の後半に、タイトルにもなっている「りんご」が出てきます。

 これは、どうしても「りんご」でなければならなかったような気がします。

 同じ果物でも、けっして「キウイ」や「バナナ」や「パイナップル」ではありません。
 登場するのは、やっぱり「りんご」しかないでしょう。

 それは、それぞれの果物が、いつの間にか世間から与えられたキャラクターを持っているためだけではありません。

 「りんご」は、アダムとイブが口にしてしまった禁断の果実だからだと思うのです。

 この「りんご」によって、悪魔の葛藤は深まります。

 そんな悪魔に、さらに人間の姿が重なって見えてきます。

 そして思うのです……悩んでいる姿は、尊くて美しい!

 それならば結末は……

 けれども本文の途中には、しっかりと書かれています。

 「しかし、悪魔は ねっからの悪魔です」と……


 「悪魔のりんご」は、実際に手にとって、じっくりと、じっくりと味わってみてください。


―――――――――――――――――――・―――・―・


 「悪魔のりんご」を、約80人の小学三年生の前で「よみっこ」してきました。

 とにかく何かを感じてもらえればいいと思っていました。

 絵本の紹介で上述したものは、私の感じたことの一部でしかありません。
 言葉にならないものも、たくさんあります。
 その言葉にならないものは、言葉にできたもの以上に大切なものであったりします。

 ですから、「大人になれば分かるさ」ではなくて「今、感じたことを感じたままに記憶して欲しい」という気持ちも込めて「よみっこ」しました。

 みんな静かによく聞いてくれました。
 そして、おはなし会が終わった後、2〜3人の子が、同じようなことを言ってくれました。

 「悪魔は、かっこよかったね!」

 現在の「かっこいい」は、あまりにも意味の幅がありすぎます。

 でもだからこそ、感じていることを伝えるために「かっこいい」という言葉を選んだのではないでしょうか。

 子どもたちの体の中には、違った形をした数知れない「かっこいい」が渦巻いていたのではないかと思うのです。

題名:悪魔のりんご

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